施設オープンまでのフローチャート
ここではチャートを見ながら、あらためてサービス付き高齢者向け住宅がオープンを迎えるまで、ホワイトメソッドで事業をいかに進めていくかを確認しておきたいと思います。
すでにここまでにおいても何度か触れてきたように、高齢者市場はいま急速に拡大を続けているマーケットですし、今後のわが国の高齢化率等を見るまでもなくこれから少なくとも数十年は拡大していくはずです。しかし、市場が大きくなるからといって事業のチャンスも右肩上がりになるかといえば必ずしもそうは言えません。たとえば、2015年には介護業界で大規模な買収劇がありました。本業である外食業の不振、という理由はあったにせよワタミ(株)が手掛けていた全国100棟を超える有料老人ホームが、損保ジャパン日本興亜HD(株)の完全子会社であるSOMPOケアネクスト(株)の傘下となり、すでにリブランドを果たしています。同じく、入居者の連続転落事故という痛ましい事件でメディアを賑わせてしまった(株)メッセージについても2016年に買収を進めていくことを明らかにしており、計画通りに運べば業界最大手である(株)ニチイ学館に迫る介護事業者が新たに誕生することとなります。
すなわち、介護保険制度の運用開始から15年が経過したいま、「ガリバー」とも呼ぶべき超大手が少しずつ誕生してきているのです。彼らにはこれまでに積み重ねてきたノウハウがありますし、ブランド力という見地に立っても今後ますますその力は強まってくることでしょう。いま、高齢者住宅に興味を抱き、本書を手に取っていただいている方、事業の将来性にピンときている地主さんは、多くが「先のことがよく見えている」「世の中の変化を敏感に感じ取っている」方だと思います。確かに、「打ち手が早い」のですが、一方で今後20年、30年先までの安定した事業をスタートするためには、残された時間はそう多くはないとも言えるのです。コンビニや外食レストランなどの例を出すまでもなく、ひとつのエリアに有力なチェーンがいくつも出店してからだと、個人商店は苦戦を免れません。業界の勢力図ができあがるまでにまだ時間的な猶予があるいまだからこそ事業をスタートするべきですし、いまの間
にしっかりと地域に根差しておくことが長きにわたる「強さ」の源となるのです。
さて、それでは実際に決断してからどのように物事が進んでいくのか、その間に地主さんがすべきことはなんなのかを見ていきましょう。ここまでの内容と重複する部分もありますが、時間軸とともに俯瞰することでより事業の全体像が見えてくることと思います。
実際のフローチャートを見ていかがだったでしょうか。「意外に長く時間がかかる」と感じられた方もきっと多くおられるかと思います。これまでにご自身の家を建てたり収益用のマンションを建てたことがある方だとよくわかると思いますが、ハードを整えるだけであれば、ここまでの期間はかかりません。しかし、サ高住の場合ですと自治体への登録や補助金の申請などが必要となるため、計画開始から少なくとも1年近くの期間が必要となるのです。それでは、それぞれのタイミングでのチェックポイントについて簡単ではありますが解説を加えていきたいと思います。
地主さんの決断まで
お話をいただくと、活用を考えている土地を拝見するとともに、ホワイトメソッドのより詳細なご説明を含めた面談を開催します。「土地の広さが足りなくて収益性が期待できない」など高齢者住宅事業に適さない場合には、絶対にこのタイミングでストップをかけます。実際に地主さんとお会いして、膝を突き合わせて話すのは決断に至るまでのタイミングが一番多いですし、私自身もメリット・デメリット含めて包み隠さずに事業の全容をお伝えすることを心掛けています。チャートを見てもらえばわかるように、サ高住建築は多くの方が関わる一大事業です。お互いに最初の段階でしっかりと情報の開示・共有をしておくことが欠かせませんし、この時点でなんでも言える・聞ける関係を構築しておくことを私も重視しています。
運営会社・建設会社・設計士選定
充分に事業化が検討できる土地であれば、早速こちらで運営会社・建設会社・設計士の手配にかかります。先の章でも触れたように、エリアであったり採用する工法によっても、それぞれ得意とする会社は異なります。案件ごとにベストのチームを組めるように私がご提案を差し上げますので、各事業者との面談や現地見学などを通じて事業パートナーを選定していただくことになります。
実際のパートナーが決まってからは、仮図面をもとにそれぞれの業者が担当業務の見積もりを私のもとに提出し、それをもとにして事業計画書を作成します。
金融機関へ融資申請・融資審査・融資契約
事業計画書をもとに、金融機関への融資申請をかけます。これまで私が手掛けてきた事例でいえば、相続対策等も視野に入れながら自己資金の比率を抑えて融資による資金調達をはかる方が多くなっています。事業計画書に関しては、私たちがこれまで手掛けてきた経験をもとにした「固い」内容となっておりますし、審査において必要な場面にはもちろん私も同席をして、地主さんに代わって事業のご説明を差し上げます。特に大きな問題がなければ、およそ1か月程度で融資が決定します。
地方自治体へサ高住登録事前協議
サービス付き高齢者向け住宅は、登録制の事業になります。当たり前ですが、「新しくサ高住を作りますよ」と民間事業者が勝手に始められるものではなく、開設にあたっては行政機関への申請・登録が必要となります。他の行政手続きと変わらず、細々とした提出書類が必要となりますが、その点はご安心ください。すでに各自治体での登録業務をこなしてきたスタッフが必要書類の作成を代行いたしますし、必要に応じて各自治体へも実際に足を運んでいます(補助金を含めて各行政機関の対応は地域によってやや差があります。書面のやり取りのみで可能な場合もあります)。地主さんは、こちらが作成した書類の内容を確認し、判を押していただくだけです。
基本設計
設計士と契約を締結後、基本設計を進めていきます。実際にはここで作成した図面をもとに、現場でも調整・図面変更を加えながら入居者、ならびに運営事業者にとって使いやすいハードを設計します。
予算、工法、必要な居室数、土地の大きさなどの制約があるなかで、いかにユーザー目線に立った設計ができるかは事業の成否のカギを握るポイントのひとつです。基本設計が終了後、自治体に建築確認申請を提出します。
登録番号取得・国へ補助金申請
事前協議の終了後、該当自治体から登録を認める旨の通知が届き、それぞれに登録番号が付与されます。この登録番号がないと、次のステップである補助金申請には進むことができません。また、登録番号はいわば私たちにとってのマイナンバーにあたる存在です。サービス付き高齢者向け住宅情報提供システムにも番号をもとに掲載されることとなり、家賃や居室の面積など物件に関するすべての情報が世の中に開示されます。どのような情報が公開されているのか、お時間があるときにサイトを確認してみても良いかもしれません。
補助金決定・建設会社&運営会社と契約
サ高住登録と同じように、くらし計画が代行して補助金の申請・審査に対応しこちらも問題がなければ約1か月で正式な決定が下されます。サ高住誕生から間もないころはもっと早いタイミングで補助金の許可が出ていたのですが、「許可は得たものの実際に着工しない」などの問題が多くあったため、設計と建築確認申請が下りてからの現在のタイミングに変更が図られています。補助金が確定すれば、いよいよ事業が本格的にスタートすることになり、建設会社ならびに運営会社と請負契約・賃貸借契約を交わし、工事に着手します。
進捗状況報告&確認
木造2階建ての場合、竣工までにおおよそ6~7か月が目安となります。この間は設計士が現場をチェックしているだけでなく、常に私も連携して現場の状況を把握しながら必要に応じて地主さんにも情報の共有をはかっています。万が一、当初の図面から大幅な変更を余儀なくされる場合(といってもほぼないのですが)にも、常に設計・建設・運営3社とともに私が最善策を固めてご提案し、タイムロスを生むことなく事業を進めていきます。また、着工にあたっての地鎮祭や上棟式の有無に関しても、ご意向に沿ってこちらで手配を進めます。
人材確保・オープン準備(運営会社)
オープン直後からしっかり稼働させるために、運営会社側も準備を行います。折込みチラシやホームページなどの広報戦略、地域の介護関係事業者への挨拶・告知などをはじめ立ち上げは非常にパワーを必要とするものですが、なかでも多くの運営会社が頭を悩ませるのは人材です。求人サイトだけでの人材確保をはかってもなかなかうまくいかないもの。その点、地域でネットワークを築いている運営会社であれば紹介などのルートも活用できますし、質の高い人材の確保が入居者・ご家族の満足度へもつながっていきます。
補助金確定
建物が竣工し、総工費が確定するとともに、補助金の金額も確定します。補助金は確定後2か月で所定の口座に振り込まれます。補助金の存在は事業の採算を考えるうえでも見逃せないものですし、「なるべく早くの決断を」と私が繰り返すのも、この補助金がいつまで続くかわからないものだからです。
ごくごく簡単にではありますが、フローと登場人物をまとめてみました。「地主がすることってあんまりないんじゃないの?」と思われた方もいるでしょう。そうです。その通りです。事業の規模に比して、地主さんの手を煩わす場面が少なく、基本的には各段階で決断し、決済していただくだけで経験豊富なプロフェッショナルがスムーズに事業を進めていくのです。
そして、もうひとつお気づきかとは思いますが、やはりそれなりに時間は必要となります。このフローチャートもあくまでスムーズに進んだ場合のもの。私の経験から言っても、実際には1年超の時間を必要とする案件も多くなっていますし、事業開始の決断をしたからといってすぐに収益を手にできるものではありません。繰り返しになりますが、少しでも早く事業をスタートし、地域における信頼を集めていくのが地味ながらももっとも確実に成功に近づく道となります。もし、高齢者住宅での土地活用を将来的に取り組みたいと考えておられるのなら――。絶対にすぐに着手することをあらためてオススメいたします。