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自立系施設は隠れたワナ

2021年12月23日

高齢者住宅には、それぞれに入居の条件が定められています。ホームページやパンフレットなどを見ていただければすぐにわかるのですが、要介護度が4、5など重度の方を積極的に受け入れているところもあれば、まだまだ元気で暮らせる自立の方の受け入れを謳っている高齢者住宅もあります。
素人考えでいけば、自立系の施設の方が、入居者のサポート・ケアに関する手間が少なくて、事故などのリスクも少ないように見えるかもしれません。それに、要介護度が高い方を受け入れるためにはそれなりに経験を積んだスタッフが質・量の両面で必要になりますし、運営会社の総合力が問われることは間違いないでしょう。
また、いま自立で暮らしている人の方が、この先長きにわたって住み続けてくれるという皮算用をしてしまうかもしれません……しかし、こうした考えは残念ながら見当はずれだと言えます。もし、どこかのコンサルタントから「自立系の施設は手がかからずに楽だから、運営に取り組んでみませんか?」のような話が来ても、絶対に乗せられてはいけません!
なぜなのか? その答えは介護保険制度の仕組みにあります。本書は介護の構造に関してとやかく言うものではありませんので詳細は割愛しますが、大前提として要介護度が高い方を受け入れて対応する方が、事業者が受け取る介護報酬は大きなものになります。一方、自立の場合には介護報酬を見込むことはできません。自立の方が入居された場合は基本的には賃料とその他のオプション的な生活サービス(設備・生活用品関係のレンタル費用、買い物代行や通院への付き添いなど)が、運営会社の計算できる収入となります。
誤解を恐れずに書いてしまうと、自立系の高齢者住宅は手間が少ない分、利用者ひとりあたりの収益が少なくなってしまうのです。入居定員の上限が決まっている以上、運営会社も「どこで、どのようにして収益を確保するか」を冷静に判断しています。そして、多くの高齢者住宅は介護報酬部分をアテにして、事業収支を組み立てているのです。
もしいま有料老人ホームの部屋が1つだけ空いていたとしましょう。人員などの他の問題がない場合には、要介護1の方と5の方から入居希望があった際に、運営会社は間違いなく後者を選びます。不謹慎な話だと考える向きもあるかもしれませんが、ビジネスとしてはこれが絶対的に正しい判断なのです。長期的に安定した経営を視野に入れれば、要介護度が高い方にも対応できる運営会社の方が絶対に望ましいですし、事業のパートナーとしても適切だと私は考えています。

自立の人が求めるものは?

私は、自立系施設がまったく存在価値のないものだと言っているわけではありません。実際に自立入居OKを打ち出す高齢者住宅は目に見えて増えてきていますし、ウチシルベに寄せられる相談のなかにも「自立でも入れる住まいを紹介してほしい」といった要望がちらほら見られます。やはり、いまは元気であっても年齢を重ねるにつれて身体の機能は衰えていくものですし、将来に対する漠然とした不安感が入居を後押しするのだと思います。今後、高齢者が増えるにしたがって「施設入居を希望する自立者」ももちろん増えるでしょうし、一概にニーズがないものではありません。しかし、自立=現在はまだ元気に暮らせるわけですから、必然的に住まいに求める要素も一般的な賃貸住宅に近いものになってきます。ソフト(介護サービス)の部分で差がつかない以上、どうしてもハードや立地、そして価格での勝負になってしまいがちですし、これでは建設資金を出す地主さんにとっても、賃料を得る運営会社にとってもメリットの少ないプロジェクトになってしまうのです。

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